写真はおそろしい。私の狙いや意図など全く無視し、ある現実をまざまざと記録してしまう。
2019年の1年間、私は再開発真っ只中の東京駅周辺で、変容する街の姿を記録に残すために撮影をしていた。しかし2020年がやって来て、その目論見は全くの的外れだったことに気づく。記録に残されていたのは失われた街の姿などではなく、直後にやって来た「新しい日常」という言葉により切断され、古い日常へと追いやられた在りし日の私たちの姿だった。私は痛感した。自分が撮った写真に写っているものが、何ひとつとして見えていなかったことを。そして何を撮影するのかなど、自分では何ひとつとして決められないことを。
本当に写真はおそろしい。写真になった人々は時が経てば経つほど遠ざかり、以前の人々へと変容していく。目前にいる人々を撮ったつもりでいても、そんなものは写っていないのだ。ここに記録され辛うじて焼き付けることができたのは、その不在の徴だけだった。
映像
https://vimeo.com/496021313
Shuhei Hatano 波田野 州平
Filmmaker 映画作家
主な作品に、『TRAIL』(ユーロスペース、2013年)、『影の由来』(東京ドキュメンタリー映画祭グランプリ、2018年)など。現時点プロジェクトのメンバーとして、昭和初期を生きた人々のオーラルヒストリーを映像で記録するプロジェクト『私はおぼえている』を行っている。
shuheihatano.com